澄み渡る雲上の絶景と、5秒間の緊迫。北海道・十勝岳、トムラウシ山、大雪山3泊4日縦走記【後編】

澄み渡る雲上の絶景と、5秒間の緊迫。北海道・十勝岳、トムラウシ山、大雪山3泊4日縦走記【後編】

今回は、前回お届けした「北海道・十勝岳、トムラウシ山、大雪山3泊4日縦走記【前編】」の続きとなります。
2日目の激しい豪雨と背丈を超える笹藪を抜け、無事に辿り着いた南沼野営指定地。
3日目の朝に広がっていた雲上の絶景と、忠別岳の先で待ち受けていた人生で最も緊迫した一瞬について綴ります。

3日目の朝、テントのジッパーをそっと開けると、前日までの激しい大雨と濃いガスが嘘のような澄み切った青空が広がっていた。

昨夜は疲弊しきって暗くなる手前に辿り着いた南沼野営指定地だったが、見上げると目の前には神々しいまでに引き締まったトムラウシ山の姿があった。

身支度を素早く整え、まずはトムラウシの山頂を目指して登り始める。

大きな岩塊の間を登り、辿りついたピークからの景観はまさに圧巻の一言だった。

昨日まで自分たちが泥と笹藪に塗れ、悪戦苦闘しながら歩いてきた遠い道のり。
そしてこれから向かう大雪山系の主峰・旭岳へと続く広大な稜線が一望できた。

かつて10年前にここを訪れた際は、最終日を除いてずっと強い雨にたたられ、この圧倒的な大パノラマを目にすることは叶わなかった。

「こんなにも美しく、雄大な場所だったのか」

池が点在し、緑のグラデーションと荒々しい岩稜が織りなす雲上の庭園。
私たちはピークでしばらく余韻に浸ったあと、この天国のような稜線歩きへと足を踏み出していった。

果てしない絶景と、静寂の休憩時間

幾つもの澄んだ池塘の傍らを抜け、幾重にも連なる豊かなアップダウンを越えていく。

本州の山とはまた異なる、地平線まで届きそうなスケール感とどこまでも続く一本道。

歩みを進めるごとに表情を変える北の大地に、昨日までの過酷な笹藪漕ぎの疲労は一瞬で吹き飛んでいった。

やがて、忠別岳の山頂へと到着した。

風も穏やかで、心地よい暖かな日差しが降り注いでいたため、私たちはここで靴と靴下を思い切って脱ぎ、少し長めの休憩をとることにした。

昨日の雨で湿っていた足を風に晒して乾かしながら、静寂の中に身を置く。

これで今日の厳しい登りはほとんど終わりだ。
あとは旭岳避難小屋へ向かって、ゆるやかに高度を上げていくだけだった。

少し身体も心もリフレッシュし、私たちは再び靴紐をしっかりと結び直して出発した。

足取りは軽くなり、快適に歩を進めていく。

前方はるか遠くには、今夜の宿となる避難小屋の小さな姿が見えてきた。

山で目指すべき建物が視界に入ると、不思議と足取りは自然と速くなるものだ。

「今日も無事に着きそうだ」

そんな言葉を交わしながら安堵した、まさにその直後だった。

距離3メートル。崖の上の黒い影

視線の片隅に、ふと異質な黒い塊が映り込んだ。

「……ん?」

何気なく右手の崖の方へ目をやった瞬間、全身の血がすっと引いていくような感覚に襲われた。

そこにいたのは、大きなヒグマだった。

崖の下からぬっと姿を現し、そのまま再び崖の下へと降りていく。

時間にして、わずか5秒ほど。

まるで鯨が海面から背中を出して、再び海の中へ潜っていくかのような一瞬の出来事だった。

目視したサイズからして、2メートルを軽く超える立派な成体。

距離にしてわずか3メートルほどの場所だった。

もちろん熊鈴は絶え間なく鳴らし続けていたし、音を意識しながら警戒も怠っていなかった。
だが、まさかこれほどの距離で、崖下から突如として現れるとは思ってもいなかった。

大声を出したり、パニックになって背中を見せて走れば、熊の追跡本能を激しく刺激してしまう。
熊はこちらをじっと見つめていたわけではなく、そのまま崖下へと消えていった。

だが、何かひとつでも余計な動作をすれば一瞬で緊張が跳ね上がる距離感だ。
いつまた上がってくるかも分からない。

そんな中不思議と頭の中は冷たく静かに冴え渡っていた。

同行者はまだ気づいていない。

刺激しないよう大声も出さず、走ることもせず、自然な一定の足取りのままその場を通り過ぎた。

前を歩いていた私は、後ろを歩く同行者に無駄な動揺を与えないよう、静かに低い声で伝えた。

「少し、ペースを上げよう」

それから20分ほど、決して走らず、必死にハイペースを保って静かに歩き続けた。

十分に安全な距離まで離れたところで初めて立ち止まり、同行者に事の顛末を明かした。
不穏な空気感、かつ多くを語らなかったことで、ヒグマであることは察してくれていた。

所々にきていた足の痛みは、あまりの緊張感とアドレナリンのせいか、綺麗さっぱり消え去っていた。

画面右側の雪渓の先の崖の上でヒグマに遭遇した

その後もペースは緩めることなく、無事白雲岳避難小屋に到着。


すぐにテント泊の受付をすると、小屋番の方からヒグマの目撃情報がないか聞かれた。

さきほどの事の顛末を話すと、そこまで近くでの目撃情報はなかったそうで、大変親身に話を聞いていただいた。

小屋番さんによると、最近は人慣れが進んでいる個体も多く、近づいてくる可能性もあるため、テン場には有刺鉄線が張られているのだという。

テントを張り、早々に食事を済ませ、緊張感と安堵の気持ちがないまぜの中、眠りについた。

翌日、下山後にニュースをつけると、ちょうど羅臼での痛ましいヒグマの事故の話題で持ちきりになっていた。

一歩間違えれば自分たちも同じ目に遭っていたかもしれない。

自然はどこまでも美しく私たちを迎え入れてくれる一方で、時に命を脅かすシビアで絶対的な厳しさを常に孕んでいるのだと、身が引き締まる思いで胸に深々と刻んだ。

下山、そして日常のグラデーションへ

翌朝、まだ星空の中で起床。

昨日のヒグマと遭遇した場所を遠くに見ながら出発した。


朝焼けの光を浴び、無機質な火山道を踏みしめる。


旭岳のピーク以降はたくさんの登山者とすれ違いながら、無事にすべての行程を終えて下山を完了した。

登山口の水道で冷たい水を勢いよく出し、顔を洗う。

肌にこびりついた汗と泥が洗い流され、心地よい爽快感が全身を駆け抜けていった。

濡れたテントを干しながらバスを待ち、旭川の街へと戻った。

遅めの昼食にと飛び込んだ店で、ジンギスカンと冷えたビールを胃袋へ流し込む。

「無事に生きている」という実感と、3泊4日の過酷な縦走を駆け抜けた達成感が、じんわりと全身に染み渡っていった。

過酷なプロセスを、静かに支える服

この3泊4日の北海道の旅の間、私の身体を支えてくれたのは『Trail Wide Pants』でした。

初日の激しい泥雨、背丈を超える濡れた笹藪との容赦ない摩擦、そしてヒグマとの緊迫感に包まれた急ぎ足。

どんな局面においても、このパンツは引き裂けることもなく、濡れて肌にまとわりつく不快感を与えることもなく、静かに私の足を黙って守り続けてくれました。

そして何より、羽田から新千歳へと向かう飛行機に乗る時も。 過酷な雨の山を静かに歩き抜く時も。 下山後、旭川の街で温かいジンギスカンを味わう時も。

一度も着替える必要すらなく、すべてのプロセスをシームレスに快適に繋いでくれました。

機能をこれみよがしに誇示するのではなく、いざという時に道具として黙ってはき手を支え続けること。

山に登るということは、ただ山頂を踏むことだけではありません。

計画を立て、街を走り、雨に打たれ、絶景に息を呑み、恐怖に身をすくませ、無事に帰ってきて美味しいものを食べる。

その一連の全プロセスを、ありのままの自分らしくい続けられる。

みなさんも次の山や旅のお供に、このTrail Wide Pantsを穿いて出かけてみてはいかがでしょうか。

【今回縦走を共にしたアイテム】

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