街から山へ、そしてまた街へ。—— 奥秩父の深い森と、多摩川の始まりに出会うルート。
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奥多摩から奥秩父へ、新緑の稜線を繋ぐ1泊2日のひとり旅。
今回は、6月上旬にスタッフが歩いてきた、笠取山周辺エリアでの山歩きの記録です。遠い学生時代の記憶に思いを馳せながら、新緑のトレイルを繋いだ2日間の記録をお届けします。

自分にとって、原点とも言える山が誰しもにあると思う。
私にとってそれは、奥秩父から奥多摩へと這うように続く、甲武信ヶ岳から雲取山までの長い稜線だ。
初めてこの地を踏んだのは、学生時代。 人生で最初の、単独テント泊の旅だった。
85リットルの巨大なザックに、当時の重たくて不格好な装備をこれでもかと詰め込み、瑞牆山から雲取山までを何日もかけて歩き通した。
右も左もわからず、ただただ苦戦の連続。
しかし、自分の衣食住のすべてを背中に担ぎ、誰にも邪魔されずに気ままに歩く日々は、言葉にできないほど肉体を解放してくれた。
体は悲鳴を上げているのに、心はどこまでも自由だった、あの感覚。
そんな青春の記憶が染みついたこのエリアは、今でも特別なお気に入りの場所だ。毎年、少しずつルートを変えながら、この静かな森へ繰り返し足を運んでいる。
先週末、まとまった時間が取れた。私は1泊2日のルートを凝視し、再びあの稜線へと向かうことに決めた。スタートは、丹波山村だ。
駅のツバメと、白樺の林
始発の電車に揺られて、奥多摩駅へ。
平日の早朝。駅のホームはシンと静まり返り、数人の乗客の頭上をツバメたちが忙しそうに滑空していた。
いつもなら長蛇の列ができるバスも、乗客は私ともう一人だけ。
動き出したバスの窓から流れる景色を眺めているうちに心地よい眠気に誘われ、気がつけば終点の丹波山村役場に到着していた。
途中で降りたであろうもう一人のハイカーは、雲取山へ向かったのだろうか。「良い山行を」と心の中でつぶやき、私は熊鈴をザックに装着し、静かに歩き始める。
まずは、飛竜山への登り。 きれいに整備されたトレイルは優しく足を受け入れてくれて、実に歩きやすい。途中でこちらの様子をじっと伺う鹿の家族にも出会った。
標高を上げていくにつれて、人工の杉林から、徐々に白樺の林へと景色が移り変わっていく。

白い幹とみずみずしい緑の葉が織りなす白樺林に入ると、いつも何とも言えない爽快な気分になり、胸の奥が高鳴るのを感じる。
最近の街の不快な暑さが嘘のように、この日は山歩きにうってつけの心地よい曇り空だった。
小さな出会いと、今夜の宿

前飛竜にさしかかった頃、静かな森に「ココココ……」と硬い音が響いた。
最初は木々が風で擦れ合っている音かと思ったが、耳を澄ますと、どうやらキツツキのドラミングのようだ。
夢中になって頭上を探すと、枝の間に小さなコゲラを見つけた。
山でキツツキといえば大きなアカゲラばかり見ていたので、目の前で一生懸命に木を突くコゲラの姿を見られたことが嬉しくて、しばらく足を止めて見入ってしまった。
こうした動物たちとの予期せぬ邂逅も、山を歩く大きな楽しみのひとつだ。
軽快に足を勧め、飛竜山の分岐へ到着。 ここからが、私の大好きなルートの始まりだ。
晴れていれば常に美しい富士山を望むことができ、アップダウンも少なくて本当に心地よい道が続く。
この日はあいにくの曇り空で富士山は隠れていたが、今年もまたこの場所に帰ってこられた、その事実だけで十分に満たされた気持ちになった。
午後になり、濃い霧が立ち込める中、瑞々しい笹道をゆく。

朝露で靴の中まで濡れてしまったが、歩きやすいトレイルのおかげで不快さを感じる間もなく、今夜の宿である将監小屋に到着した。
この日のテントサイトは、なんと私一人の貸し切り状態。
どこに張ろうか贅沢に悩みながら、水場からは少し遠くなるが、ふと見上げた瞬間の景色が一番美しい、一番高い場所を選んで我が家を設営した。
実は道中、がれ場で少し足を滑らせてしまい、足を軽く打ってしまっていた。「ソロだからこそ、もっと慎重にならなくては」と少し反省しながら、傷のケアを丁寧に行う。
お腹がペコペコだったのですぐにご飯を平らげ、冷たい水場の水で割ったウイスキーで独り乾杯。
夕方には雲がさらに厚くなり、静寂の中に幻想的な雰囲気が広がっていく。山での至福のひと時を噛み締めながら、その日は早めにシュラフへと潜り込んだ。
多摩川の始まりに、ロマンを感じて

2日目は、朝5時に起床。
まだひんやりとする空気の中、起き抜けにお湯を沸かし、温かいうどんをすする。
朝方の気温は8度ほど。温かいスープがじんわりと身体に染み渡っていくのを感じながら、身支度を整えて6時に出発した。
前日の足の痛みを考慮して、この日は笠取山の山頂は無理をせず巻くことにし、その下を通って西沢渓谷を目指す。
小屋を出て少し登ると、またあの快適な平坦路が迎えてくれた。

昨日からの気温差のせいか、笹には今日もたっぷりと露がついていて、歩き始めてあっという間に下半身はびしょ濡れになってしまう。
それでも、風もなく穏やかで、木々の隙間から太陽の光が差し込んできたおかげで、濡れていることさえも心地よく感じながら歩みを進めた。
9時過ぎ、笠取山の下にある「水干(みずひ)」に到着。

ここから滴り落ちる最初の一滴が、長い旅を経て多摩川となり、やがて東京湾へと流れ着く。
自分が今立っている場所と、遠い街が一本の水で繋がっている。そんな壮大なロマンに浸れる、大好きな場所だ。
このあたりで、今回の山行で初めて他の登山者の方とすれ違った。 ずっと誰とも話していなかったので、交わした短い挨拶がとても新鮮で、嬉しい邂逅となった。

10時に雁峠(がんとうげ)に到着。 現在は立ち入り禁止になっている雁峠避難小屋を横目に、「このまま雁坂方面へ歩き続けたいな」という気持ちを抑えて、下山ルートへ向かう。
ここからは道幅も広く、さらに歩きやすい道が続く。
水量が多い日には渡渉(川を渡ること)になる場所もあり、少し身構えたが、この日は石をつたってスムーズに渡ることができた。
美しい沢沿いの景色に目を奪われているうちに、あっという間に西沢渓谷へと下山してしまった。
下山後は、道の駅みとみでとんかつと冷たいビールを平らげ、心地よい疲労感とともにバスに揺られて帰路についた。
街から山へ、そしてまた街へ
今回の2日間は、いわゆる「名だたる山頂」を踏むようなピークハントの旅ではなかった。
けれど、街からスタートし、山へと深く入り込み、多様な緑のグラデーションに触れて、また街へと戻っていく。そのプロセスそのものが、最高に気持ちのいい、贅沢な時間だった。
激しいアップダウンも少なく、ただ静かに森と歩きたいすべての人に、心からおすすめしたい大好きなルートだ。
ちなみに、今回の2日間の旅も、私はAshTrailのウエアとともに歩いていた。
上半身は、肌触りと温度調節に優れた『Trail Wide Merino Tee』。 下半身は、抜群の開放感を持つ『Trail Wide Shorts』だ。
朝露に濡れた笹原をかき分けて歩いたため、登山靴もソックスも、剥き出しになった脛もびしょ濡れになった。しかし、ショーツ自体は膝丈の絶妙なバランスのおかげか、不思議なほど濡れることなく、終始サラリと乾いた状態を保ってくれた。
下山後にそのまま道の駅でビールを飲む時間も、帰りのバスや電車の座席でも、不快なベタつきとは無縁。どこにも突っ張ることなく「いつもの自分」のままリラックスして過ごせたのは、この道具たちのおかげだ。
山と日常を、静かに心地よく繋いでくれる相棒。
次はどのルートを一緒に歩こうか、今から楽しみに計画を立てている。 皆さんもお気に入りのウェアを纏って、自分だけの特別な景色に出会いに行ってみてはいかがだろうか。
【今回登場したアイテム】

