九重連山を歩く。一本のパンツと過ごした3泊4日の旅の記録。

九重連山を歩く。一本のパンツと過ごした3泊4日の旅の記録。

今回は先日訪れた九重山での記録を、旅の備忘録として綴ります。

 

どしゃ降りの博多、降り注ぐ音圧

4月の販売開始から、 慌ただしい日々が続いていた。

気づけば日帰りの山行ばかり。 心はどこか遠くの景色に飢えていた。

ゴールデンウィーク。 僕は吸い寄せられるように、九州・九重連山へと向かった。

旅の始まりは、羽田からのフライトだった。 連休特有の混雑を抜け、降り立った福岡はあいにくの土砂降り。

街では、博多どんたくのパレードが行われていて、 雨の中で演奏する吹奏楽の隊列に出会った。

寸分たがわぬ行進、圧倒的な音圧。 雨に打たれながらも、凛として音を響かせるその姿に、心を揺さぶられた。

僕の穿いているパンツもすっかり濡れてしまったけれど、 不思議と嫌な感じはしなかった。

そのまま水炊き屋の暖簾をくぐり、 翌朝に備えて肉500gと板氷を買い込んだ。

荒ぶる稜線、静かなる坊ガツル

翌朝、長者原の登山口に立つ。 前日の雨こそ上がっていたが、風が強い。

同行者との会話も風でとぎれとぎれ。 

「今日は稜線はやめておこう」

 計画を書き換え、諏蛾守越から坊ガツルへと向かう。

本州の山とはどこか違う、火山帯特有の荒々しい岩稜。 風に煽られながら一歩ずつ進む。

足元はワイドパンツ。 風を孕んでバタつくこともあるけれど、その自由なシルエットは、 九重の広大な景色に馴染んでいた。

13時、法華院温泉山荘に到着。 まだ誰もいない貸し切りの温泉で、独り汗を流す。 お湯加減もちょうどよく、窓の外に流れる雲を眺めながら、 ようやく山に来たんだなと実感した。

ステーキ、ウイスキー、氷点下の朝

坊ガツルの広いテン場。 風を避けられそうな場所に、今日のの住処を作る。

2時間ほど昼寝をし、目が覚めると16時。 日はまだ高く、目の前の絶景を眺めながら贅沢な時間を過ごす。

今回の旅の目的のひとつは、山でステーキを焼くこと。 新しく手に入れたアルミフライパンで、 スーパーで選んだ500gの肉を焼き上げる。

炊き立ての白米。 そして、持参した井川蒸留所のFauna。

絶景を肴に、肉を食らい、ウイスキーを流し込む。 これ以上の贅沢なんて、ちょっと思い浮かばない。

夜は想定よりも冷え込み、テント内の温度計は0度を指した。



翌朝、霜の降りたテントを抜け出し、久住山へ。

山頂はゴールデンウィークを楽しむ人々で賑わっていた。 山仲間との賑やかなパーティや家族連れの一行。

幼少期にこんな場所に来られるなんて、うらやましい限り。

 

結局、この一本しか選ばなかった

下山後は、名物のとり天を平らげ、 熊本に住む兄を訪ね、不知火をお土産に東京へと帰った。

ふと気づけば、羽田を出てから東京に戻るまで、 僕はほとんどの時間をこのパンツで過ごしていた。

もちろん、替えの着替えはザックに忍ばせていた。 けれど、結局それを引き出すことはなかった。

雨の博多も、風の稜線も。 そして、下山後の温泉上がりに、また足を通したのもこれだった。

激しく濡れても、少し歩けばすぐに乾いてサラリとした質感が戻る。 泥がついても、さっと払えば街を歩ける佇まいに戻る。 だからこそ、着替える必要を感じなかった。

汚れたら、また洗えばいい。 風が吹けば、ドローコードを絞ればいい。

何より、どんな場面でもいつもの自分でいられたことが、 この旅を心地よく、そして身軽にしてくれた。

次の長期連休は、海の日。 さて、次はこの一本を携えて、どこへ行こうか。

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